東京地方裁判所 平成10年(ワ)4532号 判決
原告 スミダ防災株式会社
右代表者代表取締役 折井清人
原告 藤原典子
右両名訴訟代理人弁護士 北武雄
同 吉川知宏
同 二川裕之
被告 山梨県
右代表者知事 天野建
右訴訟代理人弁護士 田邊護
右指定代理人 鈴木治喜
同 小林善太
同 岩下正孝
同 原紀秋
同 若林貴義
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告スミダ防災株式会社(以下「原告会社」という。)に対し、金一〇〇万二一八二円及びこれに対する平成一〇年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告藤原典子(以下「原告藤原」という。)に対し、金一九万八六一四円及びこれに対する平成一〇年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告からいわゆる借地権分譲方式により別荘地を賃借した原告らが、被告に対し、原告らを欺いて不当に高額な賃料の定め及び被告が一方的に賃料を改定することができる旨の強行法規に反する規定を含んだ土地賃貸借契約をそれぞれ締結させたこと、さらに原告会社については右賃料改定に関する規定に基づき一方的に賃料を増額したことが不法行為を構成し、仮にそうでないとしても右各契約における賃料の定めのうち適正額を超過する部分は公序良俗に反して無効であるから原告らから右部分を受領したことは不当利得であると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得の返還請求として既払賃料と右適正賃料との差額に相当する金員のうち一〇〇万二一八二円(原告会社関係)及び一九万八六一四円(原告藤原関係)につき一部請求するとともに、これらに対する不法行為の日の後であって訴状送達の日の翌日である(不当利得については弁済期の翌日である)平成一〇年四月一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
一 当事者間に争いがない事実
1 別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地一」という。)及び同目録二記載の土地(以下「本件土地二」といい、本件土地一と併せて「本件各土地」という。)は、いずれも「清里の森」と称する被告が開発、造成した別荘地(以下「本件別荘地」という。)の一区画である。
2 本件契約(一)
(一) 被告は、昭和六三年七月二一日、原告会社との間で、本件土地一を以下の約定で賃貸する旨の契約(以下「本件契約(一)」という。)を締結し、そのころ、これを原告会社に引き渡した。
(1) 期間 同日から平成二一年三月三一日まで
(2) 賃料 年額三一万三二六〇円(以下、特に断らない限り賃料は年額で表す。)
(3) 特約 賃料は、三年ごとに改定する。ただし、賃貸人において一般経済事情の変化又は土地価格の変動等により適正な時価に比し不相当と認めたときは、随時に改定する。右定めにより賃料を改定したときは、賃貸人は賃借人に通知し、賃借人は、これに基づいて賃貸人に承諾書を提出する。この場合において、賃借人は、正当な理由がないのにこれを拒むことはできない。(以下「本件特約」という。)
(二) 本件土地一に係る賃料は、平成四年三月三一日、三四万三〇二〇円に改定された。
(三) 原告会社は、被告に対し、右契約に基づき、昭和六三年度分の賃料として二三万四九四五円、平成元年度から平成三年度までの賃料として各三一万三二六〇円、平成四年度から平成九年度までの賃料として各三四万三〇二〇円を支払った。
3 本件契約(二)
(一) 被告は、平成八年一月三一日、原告藤原との間で、本件土地二を以下の約定で賃貸する旨の契約(以下「本件契約(二)」といい、本件契約(一)と併せて「本件各契約」という。)を締結し、そのころ、これを被告藤原に引き渡した。
(1) 期間 同日から平成三八年三月三一日まで
(2) 賃料 三二万〇三四六円
(3) 特約 本件特約と同旨
(二) 原告藤原は、被告に対し、右契約に基づき、平成八年度及び平成九年度の賃料として各三二万〇三四六円を支払った。
二 争点
1 被告が原告らとの間で本件各契約を締結したこと及び原告会社との間で賃料を改定したことは、民法と平成三年法律第九〇号により廃止される前の借地法(大正一〇年法律第四九号。以下「旧借地法」という。)又は借地借家法に違反する違法な行為であるか。
2 被告が本件各契約に基づき原告らから賃料を受領したことは、公序良俗に反する無効な法律行為に基づくものとして法律上の原因を欠くものであるか。
三 争点に関する当事者の主張
1 争点1について
(一) 原告ら
(1) 被告の不法行為
ア 本件各契約締結の違法性
契約自由の原則は、当事者が自由に意思決定することができることを前提としているから、虚偽の事実を告げることにより契約の相手方を欺罔して錯誤に陥らせて契約を締結させた場合には、その前提を欠くことになる。
被告は、地方公共団体であり、多数の土地を賃貸していることから、本件各土地についての適正な賃料の額を知悉し、かつ、本件各契約締結時に高額の権利金を受け取ったのであるから、本件各契約を締結する際、民法と旧借地法又は借地借家法に則した賃貸借契約を締結すべき高度の注意義務及び本件各土地の近隣にある別荘地と比較して適正な賃料を設定し、原告らに不測の損害を被らせないようにすべき信義則上の義務を負っているにもかかわらず、これらを怠り、原告らに対し、本件別荘地の運営が県によるものであるから安心で割安であり、賃料の増額はなく、増額するとしても固定資産税の上昇分程度にすぎないなどと説明して、原告らをして本件各土地の賃料が適正妥当な額であると誤信させ、本件各契約を締結させた。本件各契約に定められた賃料は後記(2) の適正賃料に比して不当に高額であるばかりでなく、本件特約は、賃貸人である被告が三年ごと又は賃料が不相当と認めたときに一方的に賃料を改定することができ、賃借人である原告らは正当な理由がなければこれを拒むことができないものとされ、原告にとって不利益かつ不平等であり、旧借地法一一条又は借地借家法九条により無効というべきである。
イ 賃料改定の違法性
前記アのとおり本件特約は無効であるから、被告は、一方的に賃料を改定することはできないにもかかわらず、原告会社をして被告が一方的に改定できるものと誤信させ、また、継続賃料は地価の上昇率に応じて敏感に上昇せずに相対的に低額になることが多い上、いわゆるバブル経済による地価上昇も被告の貢献によるものではないから、これを賃料に反映させるのは誤りであるにもかかわらず、被告は、本件特約に基づき、原告会社と協議することなく、一方的に既に高額であった本件土地一に係る賃料をさらに増額改定し、後記(2) のとおりの適正価格を大幅に上回る額とした。
ウ まとめ
以上によれば、被告が原告らをして本件各契約を締結させた上、原告会社に対しては本件土地一に係る賃料を増額改定し、原告らから賃料を受領したことは、契約自由の原則を逸脱し、公序良俗に反するものとして違法であり、不法行為を構成する。
(2) 本件各土地の適正賃料及び原告らの損害
ア 原告会社(本件土地一)関係
本件土地一の適正価格賃料額の上限は、平成九年四月一日時点においては、賃貸事例比較法により算定された一平方メートル当たり約一四六円であるから、本件契約(一)締結時及び賃料改定時においては、右価格に消費者物価指数及び卸売物価指数総平均を足して二で除することにより算出した適正時点修正率〇・九三六及び一・〇〇五をそれぞれ乗じた額である一平方メートル当たり約一三六円(全体では約一九万七七〇〇円)及び約一四六円(全体では約二一万二三〇〇円)である。
原告会社は、被告の不法行為により右適正価格の上限と実際の支払価格との差額に相当する被害を受けたから、その損害額は別表(一)記載のとおり合計一二一万八七七〇円となる。
イ 原告藤原(本件土地二)関係
本件土地二の適正価格の上限は、平成九年四月一日においては、利回り法により算定された一平方メートル当たり約一五四円であるから、本件契約(二)締結時においては、右価格に消費者物価指数及び卸売物価指数総平均を足して二で除することにより算出した適正時点修正率〇・九八四を乗じた額である一平方メートル当たり約一五二円(全体では約一八万〇四〇〇円)である。
原告藤原は、被告の不法行為により右適正価格の上限と現実の支払価格の差額に相当する被害を受けたから、その損害額は別表(二)記載のとおり合計二七万六九九二円となる。
(二) 被告
(1) 本件各契約締結の違法性
ア 本件特約は、旧借地法又は借地借家法に定める経済的事情の変動に基づく地代増額請求権を定めた上、その見直しを三年ごとにすることを明記したものにすぎず、被告が一方的かつ恣意的に賃料を改定できることを定めたものではない。
イ また、賃貸借契約締結時の賃料をどのように定めるかについては、法律上の規制はなく、契約自由の原則の下に賃貸人側は目的物の経済的価値に応じた賃料を追求することができるものというべきである。もっとも、賃貸人において合理的理由もなく目的物の価値に応じた金額を著しく超える賃料を設定した場合に、賃料は適正でないと評価することができるかもしれないが、被告は、本件各土地を含む本件別荘地の賃貸を開始するに当たり、適正な不動産鑑定を実施し、これによって得られた底地価格に二パーセントの期待利回りを乗じ、さらに固定資産税に相当する国有資産等所在市町村税交付金の負担額を加えるという土地の経済価値を反映した方法で賃料を設定しており、その額は本件各土地の価格の約一・八パーセントであって、当時の経済的状況をふまえた合理的かつ相当な額であり、原告らは、これを受け入れて本件各契約を締結したのであるから、契約自由の原則に照らしても、本件各土地に対する賃料の設定が違法であるとはいえない。
ウ さらに、賃料が不当に高額であるかどうかは、本件各契約締結時の別荘地の需給状況、本件各土地及び近隣の土地の価格等の客観的状況に照らして判断されるべきであるところ、原告らの提出した本件土地一についての不動産鑑定評価書(甲第三〇号証)は、賃貸事例比較法により原告会社と被告との間の平成九年四月一日時点における適正賃料を算出した上、これを前提にして消費者物価指数等の物価変動率を基に算出した昭和六三年時点における適正賃料と比較して本件各契約に定められた賃料が高額であるとしており、契約当時の事実についての検証及び分析がないから妥当でなく、そもそも平成九年四月時点の適正賃料を算出するものとして採用されている賃貸事例比較法は、適切な比較事例を発見することが困難であり、各契約における主観的事情を調査してこれを計量化することが不可能に近いなどの問題があるばかりでなく、実際にも本件で比較の対象として用いられた賃貸事例は、管理体制が整備されず権利金の授受が行われていないか、又は位置的に大きく異なるかのいずれかであり、比較の対象として適切ではない。
(2) 賃料改定の違法性
平成四年当時においては本件土地一の地価が契約締結時の二倍以上になっており、前記(1) イの賃料算定方法によれば賃料は従前の一五七パーセント増額することとなるのに、消費者物価指数は約九パーセントの上昇にとどまり、原告会社の過重な負担を抑える必要があることから、約二三・七パーセント(右の一五七パーセントに一〇パーセントを乗じた割合に消費者物価指数の上昇率に九〇パーセントを乗じた割合を加えたもの)増額させるのが相当であるところ、被告は、原告会社の負担を考慮して九・五パーセント増額するにとどめたのであって、消費者物価指数の上昇とほぼ同様の割合であるから、増額は合理的であって、賃料改定は違法でない。
2 争点2について
(一) 原告ら
前記1(一)(1) のとおり、被告が本件各土地についての適正賃料を知悉しているにもかかわらず、高額な権利金を受領した上、原告らに対して虚偽の事実を告げ、適正賃料を超える高額な賃料を設定したことは、契約自由の原則の範囲を逸脱しているから、本件各契約における賃料の定めは適正な額を超える部分について公序良俗違反により一部無効となり、この限度において被告が本件各契約に基づく賃料として原告らから受け取った金員は、法律上の原因がないものである。
したがって、被告は、法律上の原因がないのに、原告会社から本件契約(一)に基づき適正賃料を上回る賃料合計一二一万八七七〇円を、原告藤原から本件契約(二)に基づき適正賃料を上回る賃料二七万六九九二円の各支払をそれぞれ受けるという利益を得、原告らはそれぞれ同額の損失を被ったから、右額について不当利得が成立する。
(二) 被告
前記のとおり、本件各契約における賃料は、原告らとの間で合意して定めたものであり、その額も相当であり、賃料増額の改定も適正かつ合理的に行われたものであるから、公序良俗違反として無効となる余地はない。
第三争点に対する判断
一 争点1について
1 判断の前提となる事実関係
前判示第二の一の争いのない事実、証拠(甲第一ないし第五号証、第一七ないし第二二号証、第二四号証、第二七ないし第二九号証、乙第一三、第一四号証)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。
(一) 被告は、昭和六三年春ころ、本件別荘地の第四期分譲に際し、全国版の新聞広告を利用して、本件別荘地は借地権分譲方式を採用したため所有権分譲方式に比べ分譲価格が低くなるなどと宣伝したところ、原告会社の代表者は、これを見て本件別荘地を訪問した後、同所において三日間にわたって開催された現地見学会兼説明会に出席し、賃料の算定根拠については特段の説明を受けなかったものの、契約に関する説明文、図面及び分譲価格表の配布を受けた後、本件別荘地の中から本件土地一の借地権を取得することとし、被告に対し、賃貸借契約の申込みをした。
(二) 原告会社は、被告から、抽選により当選した旨の通知を受けた後、昭和六三年七月二一日ころ、被告に対し、あらかじめ被告所定の条件が記載されている賃貸借契約書に署名押印してこれを郵送するとともに、借地権利金、立木補償料等として合計約一四〇〇万円を支払って本件契約(一)を締結し、同年度の賃料として二三万四九四五円、平成元年度から平成三年度の賃料として各三一万三二六〇円を支払った。
(三) その後、被告は、平成四年三月ころ、原告会社に対し、同年四月一日からの本件土地一に係る賃料を三四万三〇二〇円に変更する旨の通知をしたところ、原告会社は、同月三一日ころ、被告に対し、これを承諾し、平成四年度から平成八年度分まで賃料として各三四万三〇二〇円を支払った。
(四) また、被告は、平成九年三月ころ、原告会社に対し、同年四月一日からの本件土地一に係る賃料を従前のまま据え置く旨の通知をしたところ、原告会社は、同年三月一七日ころ、これを承諾し、被告に対し、同年度の賃料を支払った。
(五) 原告藤原は、本件別荘地の第四期分譲に際し、被告に対し、その内の一区画の賃借を希望したが、抽選にはずれたため賃貸借契約締結には至らなかったところ、平成七年ころ、被告に対し、再び本件別荘地中の一区画の賃借を希望し、被告から本件別荘地の管理を委託されている株式会社清里の森管理公社に問い合わせた上、同年九月ころ、本件別荘地を訪問して借地権譲渡が予定されている約一〇件の物件の面積、価格、賃料、借地権の譲渡価格、別荘建築の有無等が記載された案内書を見ながら説明を受け、別荘が建築されていない本件土地二を賃借することとし、同年一一月ころ、同社との間で本件契約(二)について専任媒介契約を締結するとともに、従前の賃借人との間で本件土地二の賃借権を代金一六三八万六五三一円で譲り受ける旨の契約を締結して、右賃借人に対し手附として二〇〇万円を支払い、同社から振込金額明細表及び重要事項説明書を受け取り、被告の審査を受けた後、平成八年一月三一日、本件契約(二)を締結し、従前の賃借人に対し賃借権譲渡の残代金を、同社に対し媒介手数料をそれぞれ支払った。
(六) その後、原告藤原は、被告に対し、本件土地二に係る賃料として三二万〇三四六円を支払った。
(七) 被告は、平成九年三月三日ころ、原告藤原に対し、同年四月一日からの本件土地二に係る賃料を従前のまま据え置く旨の通知をしたところ、原告藤原は、同年三月四日ころ、これを承諾し、平成九年度の賃料として三二万〇三四六円を支払った。
2 本件各契約締結の違法性の存否
(一) 前判示1の各事実によれば、原告会社は、被告から提示された本件土地一の賃料を前提として、自ら本件別荘地の賃貸借契約を締結するための抽選に申し込んで、これに当選した上で、本件契約(一)を締結し、原告藤原も同様にして申し込んだ抽選にはずれた後、さらに、被告に対して本件別荘地に空きがないかを確かめた上、本件土地二の賃料を前提として、本件契約(二)を締結したのであり、原告らは、いずれも賃料を含む契約の内容を認識した上で本件別荘地の賃貸借契約の締結を望んでいたことは明らかである。
ところで、原告らは、被告は適正な賃料を設定する義務があった旨主張するけれども、契約を締結するに際して相手方と合意に達した金額で賃料を設定することができるのは契約自由の原則に照らし当然のことであり、このことは、被告が地方公共団体であっても、また、本件別荘地の周辺の土地をより低廉な賃料で賃貸していたとしても同様であり、原告ら主張のような義務が生ずると解すべき根拠は存しない。
(二) 次に、原告らは、被告において一方的に賃料を改定できることを定めた本件特約は旧借地法又は借地借家法に反して無効である旨主張するが、本件特約の内容は、前判示第二の一2、3のとおりであって、賃料の改定には従前の額が不相当となったことを要し、賃借人は正当な理由があれば承諾書の提出を拒むことができることを定めているのであるから、従前賃料が不相当となったときには当事者は将来に向かってその増減額を請求することができる旨の旧借地法一二条又は借地借家法一一条と同趣旨のことを賃貸人の改定請求の面から規定したものとみることができるのであり、本件特約によっても、原告らは被告による賃料の改定を拒否することが妨げられるものではないから、本件特約が強行法規に違反すると評価することはできない。
(三) また、原告らは、本件各土地に係る賃料が適正な賃料の上限に比べて不当に高額であると主張するけれども、右賃料額がいずれも契約当事者の合意に基づくものであって、これを違法ということができないことは前判示のとおりである。
なお、原告らが主張する適正賃料の額は、自ら提出する不動産鑑定評価書(甲第三〇号証)に記載された評価額よりも低額であるなど、その主張を裏付けるに足りる適切な証拠がないばかりでなく、原告主張の額を前提にしても、本件各賃料は、その一・八倍に満たず、年間の差額も十数万円となるにすぎないから、このような金額の賃料を定めた被告の措置が違法であると評価する余地はないといわなければならない。
そして、前掲甲第三〇号証によれば、本件土地一の適正賃料は、昭和六三年七月時点で二一万七四〇〇円、平成四年四月時点で二三万三五〇〇円、平成九年四月時点で二三万二三〇〇円であるというのであって、仮に右金額を前提にしたとしても本件土地一の賃料はその一・五倍にも満たない。また、原告らは、平成九年当時の長野県又は新潟県に所在する借地分譲型の三件の別荘地及び被告が賃貸人となっている本件各土地の周辺に存する四件の土地の各賃料と本件各賃料を比較すると、本件各賃料の方が高額である旨主張するけれども、証拠(甲第六ないし一六号証、第三二、第三三号証、乙第五、第六号証、第二一号証)及び弁論の全趣旨によれば、前者については本件各土地が首都圏に隣接する山梨県に存するという地理的条件の差違があり、後者については賃貸借契約がそれぞれ本件各賃貸借契約の二五年以上以前に締結されたという時期的な差違及び一件を除いて使用目的の差違があると認められるから、これらは比較対象物件として適切ではない。
(四) さらに、原告らは、被告が本件各契約締結の勧誘に際し、地代改定は行わず、行ったとしてもせいぜい固定資産税の上昇程度であり、また、二〇年経ったら所有権になるなどと虚偽の説明をした旨主張するが、原告らの陳述書(甲第二八、第二九号証)においても、他の賃借人が被告から右のような説明を受けた旨聞いたと述べるにとどまり、原告らについて右説明がされたと述べておらず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。
(五) 以上によれば、被告が本件各契約を締結したことについて不法行為の成立を認めることはできない。
3 賃料の増額改定に関する違法性の存否
前判示のとおり、本件各契約における賃料の増額は合意に基づくものであり、原告会社は被告の賃料の改定を拒むことができるにもかかわらずこれを承諾したものであるばかりでなく、増額後の賃料が不当に高額であると認めるに足りる証拠はない上、本件特約は旧借地法一二条又は借地借家法一一条に基づく賃料改定請求権を賃貸人の側から定めたものにすぎないから、被告はこれに基づき賃料増額を請求することができるのであり、この増額改定が違法であるとすることはできない。
なお、原告会社は、被告の賃料請求を拒むことができないと誤解して承諾した旨主張するけれども、被告の増額改定の幅は約九・五パーセントにとどまる上、増額後の事情等により賃料が不相当であれば、原告会社はその減額を請求することができるのに、前判示のとおり、原告会社は異議を述べることなく滞りなく支払ってきたことに照らすと、本件土地一に係る賃料の増額改定そのものを違法であると評価することはできず、不法行為の成立を認めることはできない。
二 争点2について
原告らは、本件各契約のうち適正賃料の上限を超える賃料額の定めが公序良俗に反する旨主張する。
しかしながら、前判示一のとおり、原告らは自己の判断により本件各契約を締結したところ、右各契約には強行法規に違反する特約は含まれないこと、本件各土地に係る賃料が不当に高額であるといえないこと、被告が本件各土地に係る賃料が不当に高額であるにもかかわらずこれを秘して本件各契約を締結したと認めることができないことなどに照らすと、本件各契約が著しく不公正な内容であるとか、あるいは、その締結行為が原告らの無知などに乗じて甚だしく不相当な財産的給付を約束させる著しく不公正な取引であるとすることはできず、これが公序良俗に反すると認めることはできない。
そして、他に本件各契約のうち右部分が公序良俗に反することを基礎づける事実を認めるに足りる証拠はない。
三 結論
以上の次第で、原告らの本件各請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斎藤隆 裁判官 内堀宏達 裁判官 小川嘉基)
(別紙)物件目録
一 所在 北巨摩郡高根町大字清里字念場原
地番 三五四五-四八四七
地目 山林
使用区分 別荘
面積 一四五〇・二八平方メートル
二 所在 北巨摩郡高根町大字清里字念場原
地番 三五四五-四七五五
地目 山林
使用区分 別荘
面積 一一八九・二四平方メートル
別表(一)
年度 支払地代 適正地代の上限 過払地代
昭和六三年度 二三万四九四五円 一四万八二七五円 八万六六七〇円
平成元年度 三一万三二六〇円 一九万七七〇〇円 一一万五五六〇円
平成二年度 三一万三二六〇円 一九万七七〇〇円 一一万五五六〇円
平成三年度 三一万三二六〇円 一九万七七〇〇円 一一万五五六〇円
平成四年度 三四万三〇二〇円 二一万二三〇〇円 一三万〇七二〇円
平成五年度 三四万三〇二〇円 二一万二三〇〇円 一三万〇七二〇円
平成六年度 三四万三〇二〇円 二一万二三〇〇円 一三万〇七二〇円
平成七年度 三四万三〇二〇円 二一万二三〇〇円 一三万〇七二〇円
平成八年度 三四万三〇二〇円 二一万二三〇〇円 一三万〇七二〇円
平成九年度 三四万三〇二〇円 二一万一二〇〇円 一三万一八二〇円
合計 一二一万八七七〇円
別表(二)<省略>